レゾナックナウ

アナリスト×CFO×CSO、価値創造し続けるための財務資本戦略

2022年04月13日

(写真 左)染宮 秀樹:当社 常務執行役員 最高財務責任者(CFO)
(写真 中央)山田 幹也氏:みずほ証券株式会社 エクイティ調査部 シニアアナリスト
(写真 右)真岡 朋光:当社 常務執行役員 最高戦略責任者(CSO)

持続的に価値を創造し続ける会社であるための財務資本戦略について、みずほ証券の山田氏をお招きし、染宮CFOと真岡CSOとの鼎談を実施しました。
(2022年4月13日 当社会議室にて実施、社名・部署名・役職名はインタビュー当時のものです)

「日本発の世界トップの機能性化学メーカー」に向けて

山田氏:まず今回の長期ビジョンのアップデートについて、経営資源を自分たちが勝ち切る領域へ明確に傾斜的投入していくという戦略は大変分かりやすかったです。投資する二つの柱として半導体材料とモビリティを掲げていますが、半導体材料領域では昭和電工が得意とする半導体材料ガス、昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)が得意とする後工程材料、そして垂直統合のシナジーが活かせるセリアスラリーなどシナリオは良く示されています。

一方でモビリティには課題があると捉えています。昭和電工にそこまでモビリティ領域の事業があるだろうか、モビリティを二つの領域の片方に位置付ける意義や競争に勝ち切る確実性については疑問が残ります。

そして、成長領域で勝つためには当然に潤沢な経営資源の投入が必要となると思いますが、残念ながら現在の昭和電工の財務体質に鑑み、両領域に十分な経営資源投入を許す状況ではないと思います。心意気や半導体材料での考え方は良いのですが、どのように戦略実行するのかについては多くの投資家がより納得できるストーリーを求めていると思います。

染宮:ありがとうございます。ご指摘の通り財務体質は一番優先度の高い課題だと認識しています。キャピタル・ストラクチャーを適正化し、次の大きな成長投資ができる体力を作らなければいけません。

また、ポートフォリオ経営を社内浸透させるだけでなく、規律ある投資を対外的にも訴求できるものにするために、髙橋新体制ではROIC経営を大きく打ち出しました。これは資本市場からのご指摘に応えていきたいという意思でもあります。

私が入社した2021年10月当初の昭和電工グループは、本社と個々の事業部がハブ&スポーク方式のようなコミュニケーションをしていました。しかし、ポートフォリオ経営を実践していくなかで、安定収益事業を担う人たちは、自分たちの生み出したキャッシュが注がれる事業に対し、どのような投資をして、どういったリターンを上げようとしているのかを聞く権利があります。そこで従来の構造を変えるべく、2021年の12月からは、全事業部長が他事業部の計画に対しても議論に加わる構造に変更しました。各事業部が全体最適化のなかで自身の役割を理解し、共通言語としてROICをKPIとして導入したのでこれらをしっかりと機能させていきたいです。この構造変化は一朝にして実現したのではなく、髙橋(当時、最高戦略責任者)が3年間かけて報告形式の統一化をはじめとした基礎を築いたから実現できたことです。

また、旧日立化成買収はキャッシュフロー創出面からも財務リスクを取りました。これは乾坤一擲の決断した。ここから通常状態の戦略投資ができる状況に持っていくために、資本構成の適正化は急務だと捉えています。営業キャッシュフローは向こう5年間で1兆円生み出す目標で、投資はそのうち半分から3分の2程度を半導体材料領域を中心に行う予定です。今回の長期ビジョンのアップデートでは財務戦略としてキャピタル・ストラクチャー、キャピタル・アロケーションの意思表示をさせていただきました。

また、D/Eレシオ1倍は適正水準かなどの検討は今後も重ねていき、更に投資余力のあるバランスシートにすべく財務運営をしています。

そして株価連動報酬の導入は現在役員のみですが、今後は社員への導入も構想しています。ポートフォリオ経営を推進していく上で、それぞれのポートフォリオ区分の役割を意識して全体最適にしていくと企業価値が上がり、社員のみなさんにもリターンがあるということを示せると考えているので、導入にあたっての説明は十分にした上で、実行していきたいと思います。

真岡:両社はお互いの悩みを補完し合える良い関係です。バリューチェーンの川中に位置する昭和電工は素材の開発力はあるけれども、川下側での製品の使われ方は把握しにくく、付加価値の高い製品を開発することが難しい状況にありました。一方でバリューチェーンの川下に位置する旧日立化成は、製品に使われる材料をお客さまがどのように使いたいかのインサイトが優れており、要求に応えるノウハウが豊富です。しかし適応力に最適化しすぎた結果として川中での素材構成や開発力・投資力が徐々に削られていました。

統合により昭和電工の素材開発力を昭和電工マテリアルズ側のお客さまの要求に適用することで、バリューチェーン全体を使った価値創造が可能となり、非常に良いコンビネーションだと捉えています。

そして、ここからどのように社会課題を解決していくかが重要なテーマです。先ほど申し上げたシナジー発揮を示せているのは半導体材料くらいです。まさに山田さんからご指摘の通りでモビリティ領域での価値創造シナリオをもっと具体的に示す必要があります。今、私たちのビジネスは自動車の中でもCASE(Connected:コネクテッド、Autonomous:自動運転、Shared & Service:シェアリング/サービス、Electric:電動化)に関わる分野ですが、中でも電動化トレンドに注力し、両社のシナジーを活かした新たな製品・サービスを作り上げながら付加価値を高めることが大事だと考えています。

また今回のような川中から川下へバリューチェーンを強化する垂直統合は珍しいケースです。だからこそユニークなモデル、価値を生み出せると思いますし、さまざまなチャレンジをしていきたいです。

山田氏:昭和電工と昭和電工マテリアルズの統合により新たな次元に進んで行けるということですね。本当に実現するために、染宮さんのご説明通り、「みんなで」取り組むことが重要だと思います。各々が役割を意識し、相手の癖や、考えを理解し合わないと素晴らしいものは創造できません。そういう意味でも、一対他で結びつくのではなくクラスターとしてコミュニケーションを図ることが、シナジーを生み出し戦略達成することの鍵になるのではないでしょうか。

染宮:おっしゃる通りですね。昭和電工グループは売上1兆3500億円の企業体ではなく、規模の大きな石油化学、ハードディスク、黒鉛電極を除けば、売上200億円から600億円規模の中堅企業が20以上集まった集合体です。ポートフォリオ経営で全体最適を図り、より大きな戦略の方向性を全員が認識することが大前提だと捉えています。

そのために、各組織の枠を超えた横串機能を強化していきます。例えば私が管轄するCFO組織の人事担当は、CHRO組織の一員として現場の状況などを今井執行役員にレポートします。また全事業部の経理メンバーはこれまで事業部所属の色彩が強かったのですが、今後はCFO組織の一員として、事業部の収支などを私にレポートします。

このように、CFO、CHROが各事業部や機能部門の人事や経理メンバーを通じて全社施策を事業部へしっかりと伝えていきながら、事業部の運営をサポートする体制が整いました。これは、CXOと事業部門との連携強化を目的としており、他のCXOについても機能によりガバナンスの効かせ方に差はありますが同様の仕組みを導入しました。

加えて、ハイポテンシャル人材の育成に取り組みはじめました。これまでは入社後に配属された事業部でキャリアを積むことが一般的でしたが、事業部を越えた異動や、本社も含めたジョブローテーションをより推進してくことで、ハイポテンシャル人材を経営チームが認識し、育成できるような取り組みです。

真岡:今年から様々な拠点でタウンホールミーティングを行っています。そのなかで染宮は事業部のROICランキングについても言及しています。はじめは順位付けされることに対し現場からネガティブな反応を懸念したのですが「今までそういう話をしてくれる人がいなかったので有り難い、目からうろこが落ちた」といった反応を多くいただきました。みんなポートフォリオ経営やROICの説明にも「なるほど。だったらこういう判断にもなりますよね」と理解を示してくれています。ミーティングの場でそれが良くわかったことが、個人的にグッドニュースでした。

山田氏:情報の共有というのがまず第一歩ですね。見える化をすることで言語が共通化されて、より一緒にやる意義が高まると思います。

真岡:事業間の横軸連携が進むと、例えば川上の原材料を供給する側の事業部で製品開発費用や設備投資を投下するようなことが起き、事業Aは若干割り食うかもしれないが会社全体としては良いという場面が出てきます。そのとき事業Aの働きを価値のあることだと評価し、行動面でもしっかりと示すつもりです。数字だけ追いかけてもどこかで破綻するので、これからは両面性を大切にしながらやっていくことが大事だと考えています。

染宮:パーパスとバリューを理解し実践できる社員が増えれば増えるほど、財務価値だけではなく、非財務価値も向上する好循環が生まれます。髙橋が口癖のように「やること・やりかた・やる人を変えずして、明日が今日よりもより良くなるわけがない」と言うのですが、そのようにバリューを社是的に染み付いたものに昇華させていきたいです。。

  • バリュー:私たちが大切にする価値観で「プロフェッショナルとしての成果へのこだわり」「枠を超えるオープンマインド」「機敏さと柔軟性」「未来への先見性と高い倫理観」

山田氏:基本的に業績等の数字で考えるアナリストがこれを言うのもどうかとは思いますが、数字になっているのは価値の半分ぐらいだと思います。数字になっていない価値を長期的に数字として見える価値に変換していくためには、社員のみなさんがベクトルを一つにすることと、定量的・定性的な両面で適切に評価されていると思えることが大事ですね。

共創型化学会社として長期ビジョン実現へ向けたロードマップ

山田氏:パーパス「化学の力で社会を変える」の通り、化学の力なくして社会は変わりません。現在私たちが享受している様々な価値を可能な限り維持しつつ、尚且つより豊かになるかたちで、カーボンニュートラルをはじめとした環境問題や、社会における不平等、飢餓をはじめとしたSDGs達成に向けて進むためには、化学の力が不可欠だと考えています。

しかし、化学だけではSDGsを達成できないのも事実です。ですから、共創型へのシフトは現在の状況を反映した正しい方向性であり、どのようにシフトしていくかは極めて重要で、昭和電工に期待している点です。共創することで関わるステークホルダーが増えます。ステークホルダーそれぞれに利害のある多数のステークホルダーが存在するので、どうやって納得して共創に加わっていただくか、生み出した価値を社内外の人たちと配分するかを具体的に示せると実現に向けた説得力が増すと考えます。
人の意識は簡単に変わりません。意識よりも先に行動を変えると結果がついてきて成功体験が生まれ、そこではじめて意識が変わるのだと思います。

真岡:カーボンニュートラルは消費者の納得がないと進まないと考えています。そのためには企業だけでなく、政府をはじめ様々なステークホルダーを巻き込んでいかなければなりません。
我々も半導体実装材料や基板、装置の開発に携わるコンソーシアムであるJOINTとJOINT2という2つの活動を行っていますが、これらはステークホルダーを巻き込んだ活動の最たるものですね。材料だけでは価値ある製品にすることはできないので、様々な人と共創する取り組みが不可欠だと考えます。また、取り組みの意義を世の中にいかに訴求できるかが大事です。価値あることを行ったとしても、それを昭和電工がやったと誰も知らなければ、最終的に我々に還元されず、インセンティブになりません。そこをどのように仕組化していくのかが、これからの私たちのチャレンジです。これまでは社内での事業部間、部署間のコラボレーションが中心になっていましたが、会社や企業の枠組みに囚われない共創により価値創造をしていくこと、そのための土台作りが大切だと捉えています。

山田氏:そういった土台作り、環境を提供していくことはとても大事なことです。また、化学業界はデジタルの活用が他の産業に比べ遅れていると思います。生産の合理化などでは進んでいますが、昭和電工がお客さま、アカデミア、社会と直接繋がり新たな価値を創造していくためにデジタルを活用していただきたいです。様々なステークホルダーと直接繋がることでコミュニケーションが活性化され、情報の共有化がされていくことが企業ないし業界の全体最適に結びつくと考えます。

染宮:デジタルを活用し、私たちが様々なステークホルダーと直接繋がっていくことが鍵になりますね。また、オープンマインドを持ったより多くの人たちが参加できるようなプラットフォームを創り、昭和電工だけでなくみんながメリットを享受できるようなエコシステムを築けると良いなと思います。
カーボンニュートラルも、一社だけでできることでなく、業界全体やガバメントをはじめ、全員が関わらなければ実現できません。そのためにはカーボンニュートラルを根本的に実現していこうといったムーブメントにしていくことが必要です。

山田氏:各社がそれぞれの都合やタイミングで投資しても根本的な問題は解決しません。そうではなく、目線、目的をすり合わせ仕組みを創ることが重要だと思います。私達はできることをやる用意はあるが、そうすると投資家が要求するリターンが出ず、そのような投資は投資家にも許容していただけない、みんなで取り組むためにはどうすれば良いのか、というところにまで共創を高めることによって初めて先に進むのだと思います。

投資家をはじめとしたステークホルダーとの対話促進に向けて

山田氏:私がアナリストとして昭和電工をカバーしはじめて今年で20年になりますが、本当によくここまで来たなと思います。繰り返しますが、パーパスで掲げられているように化学がなければ社会は変わりません。私は化学という産業が好きです。昭和電工には是非、世界を代表する化学企業の一社になってほしいです。そのためには、もっと社会や投資家に対する情報発信も含め、お客様に対しても、そして共創する様々なステークホルダーに対して、情報を積極的に発信していただければと思います。

染宮:情報発信が足りないのはなぜかというと、今までずっと受け身だったからです。私はCFOとして投資家の皆様とのコミュニケーションを通じて、昭和電工がいかにステークホルダーの信頼や期待に対して、十分に応えられてこなかったかを非常に強く感じました。決して怠慢だったわけではなく、精一杯ステークホルダーの皆様に対して真摯に取り組んできたことは理解しています。ただ長い歴史や過去からのしがらみにより、社外の変化を意識しないままに応えられてこなかったということがあるので、仕切り直していかないといけなければいけません。その上で二つの会社が一緒になるのではなく、二つの会社がレゾナックという新しい会社になるので、あるべき姿、新しい価値観をしっかりと創っていくことを意識していきます。

真岡:以前当社の経営陣勉強会で山田さんに登壇頂いた際、これだけ価値を生んでいる化学産業が正しく評価されてないのはなぜかという問いに対し「化学というのは基本的にプロセスネームで、何をしているか伝わらない」とお答えになったことが印象に残っています。我々のビジネスが様々な方へ届いているのかを冷静に判断し、改善していくための手立てを講じることの重要性に改めて気付きました。価値を届ける相手は、企業や投資家ではなく、最終的には人です。今までの化学産業の慣習に囚われることなく、人の心を捉えた共創型を考えていきたいです。

プロフィール

山田 幹也
みずほ証券株式会社 エクイティ調査部 シニアアナリスト

ダウ・ケミカル日本に入社し、研究開発、財務企画担当部長、ダウ太平洋地区フィナンシャル・プランニング・マネージャーなどを歴任。ゴールドマンサックス、JPモルガン、リーマンブラザーズ、バークレイズ証券などを経て、2016年にみずほ証券入社。現在、化学・繊維部門を広範囲にカバー。

染宮 秀樹
昭和電工株式会社 常務執行役員 最高財務責任者(CFO)

野村総合研究所を経てメリルリンチ日本証券、JPモルガン証券でテクノロジー・メディア・テレコム業界担当投資銀行業務の統括責任者を歴任後、ソニーに入社。同社では、グループ全体のM&A責任者、半導体事業のCFO、AIセンシングソリューション事業立ち上げに携わった。2021年10月に当社入社。2022年1月より現職。

真岡 朋光
昭和電工株式会社 常務執行役員 最高戦略責任者(CSO)

A.T. カーニーを経て、インフィニオンテクノロジーズ、レノボ・ジャパンで事業戦略、ビジネスモデル変革等に従事後、ルネサスエレクトロニクスに入社。同社執行役員として、経営企画、中国事業統括等に携わる。2021年10月に当社入社し、2022年1月より現職。

  • 社名は当時

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