レゾナックナウ

ニューラル夫馬賢治氏と語る「サステナビリティ社会に向けたレゾナックの挑戦」

2022年05月25日

(写真 左)夫馬 賢治氏:株式会社ニューラル 代表取締役CEO
(写真 右)松古 樹美:昭和電工株式会社 サステナビリティ部長

当社のサステナビリティ戦略について、株式会社ニューラル代表取締役CEOの夫馬賢治氏をお招きし、サステナビリティ部長の松古との対談を実施しました。
(2022年5月25日 当社会議室にて実施、社名・部署名・役職名はインタビュー当時のものです。)

現在そして将来の社会課題を解決するには、素材、化学の力が欠かせない

夫馬氏

社会課題は山積しており、その解決の多くには素材が関わってきます。これからどんな製品を作るにしても、例えば新興国のインフラの整備にしても、たくさんの素材が必要になります。また、今必要とされて使われている素材には、残念ながら負の影響を生み出してしまったものがあることも否定できず、ここにイノベーションが期待されています。現在そして将来の社会課題を解決するにあたって、今ほど素材メーカーの重要性が高まっているときはない。化学の力でやるべきこと、やれることは沢山あります。

松古

力強い言葉をありがとうございます。これは統合新会社のパーパス「化学の力で社会を変える」がまさに捉えようとしていることです。またおっしゃる通り、私たちは化学の力で人々の豊かな生活を支えようとしてきた一方で、環境や社会に対して負の影響を及ぼしてきたことも自覚しています。
2022年2月に公表した長期ビジョンでは、2030年の「ありたい姿」を実現するための経営にとっての重要課題、いわゆるマテリアリティ(サステナビリティ重要課題)を公表しました。そしてこの度、未来の社会や環境に対して過去も私たちはもう少し想像力を働かせる余地があったのかもしれないとの思いも込めて、私たちの事業活動を通じたSDGs達成への貢献に向けた決意を「化学の力で実現したい未来」への貢献として以下の図のように現しました。

(図)化学の力で実現したい未来 (統合報告書より)

「サステナビリティを経営の根幹に据え」て「世界で仲間をつくる会社」になる

夫馬氏

高橋CEOが長期ビジョンアップデートで示した「サステナビリティを経営の根幹に据える」(リンク:長期ビジョンアップデートPDFを開く )との言葉通りに、サステナビリティを大上段から捉えて経営資源の配分にも活かしていこうとする姿勢はとてもたくましく、応援したいと思いました。統合新会社として、また重要性がますます高まる化学・素材企業がトランスフォーメーションするにあたってこのアプローチはとても重要です。
サステナビリティビジョン2030の「世界で仲間をつくる会社になる」もとてもいいと思いましたし、この考え方をビジョンという上位概念に掲げるのは非常に先進的です。ここまでしないと持続可能な社会を共に創るパートナーから「選ばれない」し「選べない」という覚悟が表れており、力強いです。

(図)「ビジョンの図」(統合報告書より)

2030年以降の大変革時代に向けて現長期ビジョン期間に準備すべきなのはヒト・モノ・カネ・時間の制約をなくしていくこと

夫馬氏

また、「社会課題を解決することにより企業成長をする」のためにも、ヒト領域をマテリアリティとして掲げているのはいいと思います。これからも堂々と胸を張れる素材を開発し供給し続けるために、こんな研究開発がしたい、こんな営業を、生産をしていきたい、という自らが目指す姿から現在とのギャップを考える。現状のやり方や人、体制、資金などを検討の出発点とすると間違ってしまう可能性があります。
御社の長期ビジョン期間はもうあと8年半くらいしかありません。この期間を2030年以降に大きなイノベーションを仕掛けるための準備期間と位置付けるべきではないでしょうか。2030年代は、素材転換により、エネルギーも資源循環も大きく変化するはずで、素材、化学会社としてはその真ん中にいなければならない。その頃の事業環境の変化は今よりもっと激しくドライブがかかっていると想定して、これからの8年半をイノベーションの果実を実装していくための準備期間と位置づけ、ヒト、モノ、カネ、時間の制約をなくしていってはどうでしょうか。
つまり、現在策定中のさまざまな非財務KPIやこれから研究開発や事業推進に組み込んでいくサステナビリティ視点については、PDCAをしっかり回してガバナンスをかけ、来るべき大変革時代に備えるのです。そこで重要なのは、繰り返しになりますが、現状のヒト、モノ、カネ、時間の制約を前提にした議論にしないこと。そしてその頃に中心として活躍している世代を育成しこうした議論に巻き込んでいくことも必要です。

多大な「コスト」に見えるものに果敢にヒト・モノ・カネを投資し「リターン」をあげていくこと、それこそがイノベーション

松古

当社を含めた多くの会社では、どうしても現在の経営資源の制約を将来の検討の前提としてしまいがちだと思います。長期的な目線での投資や世代を超えた価値観の共有といった議論が苦手で、つい利益か責任・貢献か、現在か未来か、と問いを二項対立にしてしまう気がします。もちろん日本企業だけの問題ではないですし、例えば投資家側にも同様の論点がありそうです。それを克服することも今回のコーポレートガバナンスコード改訂に繋がっていると捉えていますがどうでしょうか。

夫馬氏

そうですね。例えば、岸田内閣はカーボンニュートラルの分野に今後10年間で総額150兆円の投資を実現していく方針を掲げました。とはいえ、これはすべて補助金ではありません。官民あげてのファイナンスであり、この超長期的なプロジェクトにおカネをつけるかどうかは最終的には長期目線でモノゴトを捉えるかどうかの企業判断や投資家判断になるわけです。少なくとも特に欧州では、長年の葛藤を経て、官民ともにこの大前提で動き始めている。そのためのファイナンスの条件としての資金使途、事業計画、そしてサステナビリティ体制が厳しく問われているのです。
短期PLの視点で考えてしまうと、まずは収益、そして余裕がでたらコストとしての社会貢献、と順番を付けたくなってしまう。そうではなくて、従来の「リターン」よりも遥かに長い時間軸を意識し、将来の事業を創出するための大きな投資をするという「リスク」を取る経営判断をするかどうか。コーポレートガバナンスコード改訂により、取締役の中でも特に社外取締役には、長期的、大局的な第三者的立場から、経営陣が規律を持ちつつも長期的な目線で経営資源を配分する判断を促す役割が求められるようになっています。

松古

社会の持続可能性に貢献することで企業自身の事業成長を達成し、価値を生みだすというキレイゴトを有言実行するために、経営者にはキャッシュと勇気が必要であり、コーポレートガバナンスはそのための厳しくも愛のある応援の仕組みということでしょうか。

夫馬氏

はい、しかもその応援にはますます大きな責任が伴ってきます。素材・化学企業は、製品機能の向上、規模の経済の追求も含めたコスト削減、環境負荷の低減など、相反するものを同時に成し遂げなければならない。その中でイノベーションを起こすとは、単に革新的な技術を開発し社会に実装することにとどまりません。多大な“コスト”に見えるものに果敢にヒト・モノ・カネを投資し“リターン”をあげるやり方を見つけること、それこそが化学産業におけるイノベーションではないでしょうか。
欧米のみならず、最近では韓国、中国の化学企業もこの方向に舵を切っており、そのスピードはものすごく速いです。この波に乗らないということは「競争には参加しません」と言っているようなものと思った方がいい。世界で戦う、とは、このようなイノベーションあるいはビジネスモデルの変革も意味していると考えます。

私たちのマテリアリティと非財務KPI

松古

マテリアリティを特定して以降、その具体化の一環として非財務KPIの設定に取り組んできました。統合報告書発行時点でようやく「責任ある事業運営による信頼の醸成」「自律的で創造的な人材の活躍と文化の醸成」の2つのマテリアリティに対するKPIの形が見えたところです。これからは、これらをもう少し深掘りするともに「イノベーションと事業を通じた競争力の向上と社会的価値の創造」についての検討に入ります。
全体として拘ってきたのは、それぞれの現場の課題感とありたい姿を踏まえた私たちの「一丁目一番地」をしっかり見定めるということでした。皆が課題だと感じ、顧客を含めたステークホルダーから信頼されて選ばれ、自らも選んでいくことができるようになるために必要だと納得できるもの、当社らしく拘るべきは何か、という議論を経営陣を含めて繰り返しました。そのため、KPIには数値的なものだけでなく、まずは定性的なプロセスを構築するといったようなものも多いです。客観的な成果のモニタリングは今後の課題ですが、まずは取り組みをスタートさせて私たちにとって本当に重要なことに取り組めているかを確認しながら進んでいきます。(リンク:社内実務担当者へのインタビュー「安全」「コンプライアンス」「リスクマネジメント」)

KPIは最初から100点である必要はない。まず始めることで問題意識が出てきて進化できる

松古

KPIは最初から100点である必要はなく、一歩でも二歩でも現状から動かすこと、担当部門に「動き出そう」と思ってもらうことが大事です。まずは始めることで、具体的な問題意識が出てきて、自ら足りないところに気が付き、取り組みを進化させていけます。
KPIは定めておしまいではなく、取り組みにも見直しが必要ですから、社内で議論を重ね、皆の意思の入ったものを丁寧に策定していくというプロセスはとてもいいと思います。そのうえで、現状よりも少し改善しよう、ここは今よくできてるからそのままでいいだろう、という判断ではなく、目線を常に未来において、そこからバックキャストして考えることを忘れてはいけません。

今のグローバルだけでなく、「これからの」グローバルを見据えて今決めることが大切

夫馬氏

「世界で戦える会社」になったときには、生産も研究開発も営業も、世界中で業務を行っているはずです。そこで仮に、ある新興国で工場の操業を開始したとしましょう。そのときに、日本で現状想定しているレベルの安全ゼロ、廃棄物ゼロなどに新興国でも対応できるでしょうか?2030年に世界で戦っているときに、どこまで今、KPI設定しながら考えたことをやりきれるか。その時点から見て、今からできることを追求していくのがあるべきKPIです。そのためには視点を国内にとどめないこと、現在の経営資源の制約を前提にしないこと、そのうえで、コミットすることが求められています。

松古

厳しいですね。将来どこに今後生産拠点を作るかも、どの業種のどんな会社を買収するのかも決まっていないから、何を基準に評価すべきなのかもわからない、だから目標も決められないし投資もできない…と逡巡していては遅い、ということですね。今見えていることだけで決めてはいけないけれど進めなくてはならないということ、そして今のグローバルだけでなく「これからの」グローバルを視野にいれて今決めるべきことを決めてスタートしながら見直し続け、それをステークホルダーにも見せてフィードバックを取り入れていくのが大切だと痛感しました。

夫馬氏

はい、国内はここまでやれていますが、海外の状況は把握できていません、では、グローバルに活動する企業として今や許されないと思った方がいい。たとえば、ダイバーシティにしても、アメリカの人種やエシニシティに基づくものと日本の課題は違うため解決のアプローチも違うはずです。キャリアマネジメントにしてもインドの社員に日本の考え方を適用するのが適切か。さらに、パーパス・バリューの浸透にはもっと深い課題があるのではないでしょうか。

松古

そうですね。例えば毎月開催しているサステナビリティ推進会議(CEO以下全CXOが参加する会議)に海外拠点の現地の顧客と文化を熟知しているメンバーにも参加してもらったり各事業部や異なる世代の声を受け止めるなど、グループ内についてももっと多様な人材が議論に加わる仕掛けを早急に実装する必要があると実感しました。

夫馬氏

同じく、女性管理職比率のような指標も、現在国内で課題が大きいから国内比率の向上を優先するのは理解できます。まずは一歩進みましょう。でも世界で戦っている会社の論点はそこにはない。現在、入社する女性技術者が少ないならば、将来を見据えた女性のリーダー育成、STEM人材育成を企業が先回りして大学や高校で行っていく。社内に閉じない、将来世代への投資をグローバル企業はすでに始めています。税金を払っている企業の責任範疇外ではないか、などと言っている場合ではないのです。

松古

将来世代への貢献にももっとプロアクティブに動いていい、いくべきとの考え方ですね。当社にとっても社会にとっても、現代世代にも次世代にもプラスになる活動はよりよい社会を目指して共創しようとするスタンスに通じると思いました。なおSTEMについてはA(Art)を入れたSTEAM人材育成が今後は必要だとも思っています。素材・化学企業として、よりやわらかい頭で想像力を発揮して、未来の環境や社会への正負両方の影響考えながら、実現したい未来を見据えてビジネスや研究開発していくためにも…

夫馬氏

はい、まだまだやることは多いと思いますがよいスタートを切れていると思います。繰り返しになりますが、目指す姿については制約から考えないことと、目指す姿を見据えて足りないものを考えて、挑戦していくことを大切にしてください。応援しています。

(対談を終えて)

中期KPIを2030年を見据えた最初の一歩と位置づけてきましたが、もう少し歩幅を大きく捉えること、グローバル視点を入れること、そして全従業員が「動きたい」と思うようなマインドを醸成することが課題と再認識しました。
サステナビリティの観点からも「世界で戦える会社」「世界で仲間をつくる会社」になっていく道のりは長いですが、しっかりとグローバル、リージョナル両方の従業員が一緒になって楽しんで試行錯誤していける仕掛けをつくっていきたいと思います。

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