気候変動への対応:TCFD提言に基づく開示

基本的な考え方・方針

当社は、各種製品の製造工程で化石原燃料を使用しており、温室効果ガス(以下、GHG)を排出する一方、省エネルギー・炭素循環に貢献する製品も数多く有していることから、気候変動への対応はリスク・機会の両面より重要な経営課題と捉え、2019年5月に「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)に賛同しました。気候変動が当社に及ぼすリスクと機会を評価し、シナリオ分析の内容を踏まえた取り組みを通じてレジリエンスを強化するとともに、TCFDのフレームワークに基づいた情報開示を進めステークホルダーとの対話を推進していきます。

ガバナンス

取締役会の役割・監視体制

当社は、経営の根幹にサステナビリティの概念を据え、パーパスに基づき「化学の力で社会を変える」ために、「サステナビリティビジョン 2030」を設定すると共に、長期ビジョンの主要戦略を実行するため、気候変動対策を含むサステナビリティ重要課題を特定し、社内浸透を進めることを明確に定めています。
当社は、気候変動に関するリスクや事業機会、目標や具体的な取り組み施策については、グループCEOが統括、グループCSOが推進責任を担い、カーボンニュートラルプロジェクトで議論の上、サステナビリティ推進会議や経営会議で協議・決定するとともに、進捗管理・モニタリングを定期的に実施し、必要に応じて対応策・是正策を検討します。
取締役会は、サステナビリティ推進会議や経営会議で協議・決定された内容の報告を定期的に受け、企業価値の最大化の観点から議論・監督を行っています。また、長期視点での経営を強く促し、当社の持続的な成長を促すため、2022年から長期ビジョンにおける取り組み・気候変動を含むサステナビリティ課題への対応などについて、社内取締役と執行役員の業績評価指標に含めています。
 

カーボンニュートラルプロジェクトの位置づけ

カーボンニュートラルプロジェクトの位置付け(2023年6月30日現在) 取締役会-経営会議-サステナビリティ推進会議から3つに派生 レスポンシブル・ケア推進会議 カーボンニュートラルプロジェクト 人権プロジェクト

戦略

短期・中期・長期の気候関連リスク・機会および対応

当社は、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、気候変動を「事業機会」と「リスク」の両面で捉え、企業としての社会的責任の実践とさらなる競争優位性の構築を図り、「脱炭素に向けた製品・サービスの提供」「パートナーとの共創」「エネルギー効率の改善」「再生可能エネルギーの使用拡大」などによりバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量削減に取り組んでいきます。
そんな中、気候変動が当社の事業に及ぼす影響(事業機会・リスク)について、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)などが発表する「世界の平均気温が4℃以上上昇する」「世界の平均気温がパリ協定で合意した2℃未満の上昇に抑えられる(一部1.5℃以内)」の2つのシナリオでリスクと機会を分析し、当社の対応の必要性を改めて確認しています。

全社への影響がある移行リスクとしては、炭素価格などのエネルギー諸税上昇による操業コストの増加が考えられます。当社は基準年である2013年実績460万t-CO2から30%削減し、2030年は排出量約320万t-CO2を目指しています。売上成長に伴う2030年度のScope1・2の排出量を約500万t-CO2と見込んだ場合、IEAの2℃シナリオ(SDS)※1の予想などを参考に炭素価格を10,000円/t-CO2とし、目標未達部分のオフセットとしての排出量取引が発生すると想定すると、30%削減できなかった場合は約180億円/年の操業コスト影響が発生し、削減できた場合は操業コスト抑制につながります。その他にも社会とさまざまな接点を持つ当社は今後もシナリオ分析を活用し、社会の多くの場面でカーボンニュートラル
社会の実現に貢献すると共にリスクへの対応を行い、持続可能な成長を行っていきます。

気候関連のリスク・機会と主な対応

気候変動による当社への影響 領域 リスクの種類 機会の種類 顕在時期※2 対応
移行リスク・機会 カーボンプライシング(ICP)導入による、税負担(コスト)の増加 すべての事業領域
政策・規制
  中期
  • 2030年GHG排出量削減目標の見直しとロードマップ策定
  • 石油化学、化学品事業におけるカーボンニュートラルへの取り組みの実施
  • GXリーグへの参画
GHG排出削減要請強化による、再生可能エネルギーへの切替・調達コスト増加
市場・技術
  短期~中期
  • 水力発電設備の活用
GHG削減に繋がるサーキュラーエコノミーへの要求の高まり
市場・技術

製品/サービス/市場
短期~中期
  • プラスチックケミカルリサイクル、鉄リサイクル(黒鉛電極)へ取り組み強化
カーボンニュートラルに向けた製造プロセス対応への要求の高まり
市場・技術
  短期~中期
  • 製造プロセスの見直し、革新的技術の導入
政府による企業の脱炭素取り組みに対する政策上の支援
政策・規制

製品/サービス/市場
短期~中期
  • 次世代グリーンパワー半導体用8インチSiCウェハー開発計画(NEDOグリーンイノベーション基金事業採択)
  • 革新的分離剤による低濃度CO2分離システムの開発計画(NEDOグリーンイノベーション基金事業採択)
  • 半導体材料グローバルサプライチェーンを強化(経済産業省 海外市場調査等事業費補助金(インド太平洋地域サプライチェーン強靱化事業)採択)
消費者の行動・意識変化に伴う、売上の増加・減少
市場・技術

製品/サービス/市場
短期~中期
  • 低炭素社会のニーズに対する製品拡販、新製品開発、競争力強化
  • 共創の舞台(新研究所)での長期研究開発促進
お客さまからの低炭素化に対する取り組みと開示要求の増加
市場・技術
  短期
  • LCA(CFP)算定体制を整備し、炭素排出量の見える化、削減計画策定
社会や顧客からの環境課題解決ニーズを捉えられないことでの業績不振による投資家からの評価の変化
評判

製品/サービス/市場
短期~中期
  • 社会や顧客の課題解決に貢献するための自社製品/サービスの付加価値向上
  • 気候変動/循環型社会に向けた積極的な対応を進めることによる投資の呼び込みなど
半導体デバイスの技術革新・低消費電力化の需要増 半導体・電子材料領域
市場・技術

製品/サービス/市場
短期~中期
  • 次世代半導体パッケージ実装技術開発のためのコンソーシアム「JOINT(ジョイント)2」を設立(NEDOポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発採択)
  • 環境適合製品設計アセスメント、低炭素化製品の開発
デジタル化よるデータ処理量増加に伴う製品の省エネ化・次世代パワー半導体需要増
市場・技術

製品/サービス/市場
短期~中期
  • データセンター低消費電力化へのHDメディア研究開発
  • SiCパワー半導体需要増大への対応
バッテリー関連材料・複合材の開発への要求の高まり モビリティ領域
市場・技術

製品/サービス/市場
短期~中期
  • 統合による材料開発へのシナジー効果最大化(熱・音・電磁波制御などの材料のソリューション、部品のモジュール化などシステム設計でのモジュールソリューション)
自動車低燃費化・省エネルギー化・EVの普及に貢献する素材・部品の需要拡大
市場・技術

製品/サービス/市場
短期~中期
  • 部品の小型化、軽量化に貢献する材料開発
  • SiCパワー半導体需要増大への対応
物理リスク 洪水による製造拠点の操業停止、設備の修復費用の増加による収益減少 すべての事業領域
急性
  短期
  • 各拠点の洪水リスク分析の実施
  • 定期的なリスクの抽出・低減活動、BCP(事業継続計画)の強化
  • ※1 2℃シナリオ(SDS):持続可能な開発シナリオ
  • ※2 顕在時期:短期:3年未満 中期:3~10年未満 長期:10年~30年
  • 採用シナリオ:1.5/2℃シナリオ(IPCC/RCP2.6、IEA/SDS、一部IEA/NZE)、4℃シナリオ(IPCC/RCP8.5、IEA/STEPS)

リスク管理

リスクを評価・識別・管理するプロセス

当社は、各事業の気候変動シナリオ分析を順次実施し、気候変動影響による「移行リスク」「物理リスク」を抽出し、当社にとって重要な気候変動に伴うリスクを特定して対応策を立案しています。リスクの特定、対応策の立案にあたっての重要事項は取締役会へ報告しています。今後も気候変動シナリオ分析を継続し、リスク・対応策を更新していくとともに対応策の進捗状況のモニタリングを実施していきます。

全社リスクマネジメントへの統合状況

リスクを全社的に管理する体制を構築することが重要であることを踏まえ、グループ共通のフレームワークで統合リスクマネジメントの取り組みを行っています。気候変動関連リスクを含め当社グループの経営に影響を及ぼす可能性があるリスク情報は、全社的に展開するリスク棚卸活動(リスクアセスメント)を通じて、リスクマネジメントシステムに一元的に登録され、発生頻度と影響力が共に非常に高いリスク(トップリスク)については、専門委員会(リスクマネジメント委員会)で審議します。両会議共に重要事項は経営会議で審議・決定の上、取締役会に報告されます。
 

リスクマネジメントの流れ(2023年6月30日現在)

リスクマネジメントの流れ(2023年6月30日現在)CXO組織、事業部門事業所、グループ会社 戦略リスクはCSO、CFO、オペレーショナルリスクやハザードリスクはCRO管掌の下、リスクマネジメントを推進→リスクマネジメント委員会 重点リスクの審議→経営会議 リスクマネジメント方針・計画の審議および活動の承認→取締役会 リスクマネジメント方針・計画の承認および活動の監督

指標と目標

「2050年カーボンニュートラル」に向けて、統合新会社発足にあたり2021年に2030年のGHG排出量削減目標を見直し、「2013年比30%削減」を目標としました。低炭素社会実現に向けた各事業の中長期計画の見直し、2030年におけるGHG排出量削減目標の達成に向け排出量の削減とさらなる省エネルギーを推進していきます。また、長期ビジョンで目指す姿「持続可能なグローバル社会に貢献する会社」として2050年のカーボンニュートラルに挑戦します。2022年は、一部の生産量減少や再生可能エネルギーの調達があり、2013年比で7.3%削減しました。

重要項目(KPI)の目標と実績

重要項目(KPI) 2030年目標 2022年実績
温室効果ガス排出量の削減 温室効果ガス排出量 2013年比30%削減(Scope1+2)(連結) 温室効果ガス排出量 2013年比7.3%削減(Scope1+2)(連結)

* 統合に伴い、排出量実績の見直しを実施しています。また、Scope3については上流側の算定・開示から実施し、目標設定を検討しています。


Scope3の温室効果ガス排出量(2022年)
カテゴリー1,5,6,7:旧昭和電工単体、カテゴリー2,3:レゾナック連結、カテゴリー4:レゾナック単体

  カテゴリー 排出量(千t)
1 購入物品・サービス 1,969
2 資本財 308
3 燃料・エネルギー関連 466
4 上流の輸送流通 26.5
5 廃棄物 10
6 出張 1
7 通勤 0.5
  上流計 2,781
レゾナック単体 2018年 513百万トンキロ 2019年 468百万トンキロ 2020年 427百万トンキロ 2021年 372百万トンキロ 2022年 382百万トンキロ

輸送トンキロ

輸送部門のCO2排出量(レゾナック単体) 2018年 32.8千t 2019年 28.9千t 2020年 25.9千t 2021年 26.4千t 2022年 26.5千t 輸送エネルギー消費原単位(レゾナック単体) 2018年 28.5kl/百万トンキロ 2019年 28.0kl/百万トンキロ 2020年 27.7kl/百万トンキロ 2021年 27.0kl/百万トンキロ 2022年 26.2kl/百万トンキロ

輸送部門におけるCO2

物流に伴う環境負荷を低減するため、トラックによる輸送から、鉄道や船舶を利用した輸送を行うモーダルシフトやトラックの大型車両の活用、積載率アップを進めてCO₂排出量の削減に努めています。また、モーダルシフトのほかにも、納入ロットアップによる輸送回数削減や出荷場所の変更による長距離輸送などの削減を図り、輸送エネルギー使用量の削減に努めています。2022年は輸送量が増加した一方、CO₂排出量はほぼ変わらず、輸送エネルギー消費原単位は前年より改善する結果となりました。