開発ストーリー銀ナノワイヤ透明導電フィルム

指で触れて操作するスマートフォンやタブレットPCの静電容量式タッチパネルをはじめ、さまざまな用途で使われる透明導電フィルム。一般的に、硬くて折り曲げに向かないといわれている従来品に対し、昭和電工は、透明導電フィルムの材料に銀ナノワイヤを使うことで、曲面や折り曲げ部でも使用できる、これまでにない透明導電フィルムを開発しました。

銀ナノワイヤ透明導電フィルム
開発のきっかけを教えてください。

これまでタッチパネルの電極には、高い透明性・導電性を持つITO(Indium Tin Oxide)フィルムが一般的に使われています。しかし、ITOのように金属酸化物を積層したフィルムは硬くて折り曲げに向きません。また、ITOはその製法上、透明性を維持したまま、今以上に大きなタッチパネルに搭載することは困難と考えられています。そのため、メーカー各社は、柔軟性を持ち、また大面積化が可能な、ITOに代わるより高い透明性と導電性を持った材料を模索しているのです。

そのようななか、昭和電工ではこれからのインターフェースの多様化に合わせて、タッチパネルがもっとフレキシブルな形状になると予測。携帯性と大画面化を両立する折り曲げタイプのスマートフォンや、自動車用の曲面を備えたディスプレイなどの実現のため、折り曲げ部や曲面でも導電性を維持できる透明導電フィルムの開発に着手したのです。2016年ごろのことでした。

どのような方向性で開発を進めることにしたのでしょうか?

我々は2012年ごろから、銀ナノワイヤを含めた導電材料の開発を、幅広い市場領域に対応できるよう進めていたのですが、ある時を境に開発方針を転換しました。開発材料を絞り込み、その特長が活かせるような市場に優先して対応するため、選択と集中を行い、最終的に曲面や折り曲げ部でも使用できる透明導電フィルムの市場を選びました。

ITOに代わる材料として、導電性高分子や、カーボンナノチューブなど、さまざまな候補はありました。その中で導電性の高さはもちろん、コストや加工のしやすさ、着色の影響を考慮し、総合的に優れている銀ナノワイヤを選定したのです。

開発の様子を振り返っていただけますか?

同じ材料を選択している他メーカーがいることは把握していました。しかし、昭和電工ではフィルムの層構造を工夫することにより、折り曲げ耐性の向上など、フィルムとしての付加価値を高めることを目指しました。

単純に銀ナノワイヤを基材のフィルムに塗るだけでは、銀ナノワイヤが凝集し、十分な導電性が発現できなくなります。適度に分散させるため、凝集を防ぐバインダー樹脂と、それを含めたインクを独自に開発する必要がありました。通常ですと、膨大な樹脂の中から最適なものを検討する地道な作業が必要です。しかし、昭和電工が保有する樹脂の知見、例えば合成技術や構造物性に関する知識を活かし、短期間で最適な樹脂を選定して、狙いの効果を発現させることに成功しました。

導電膜の劣化を防ぐオーバーコート材料についても、インク同様に当社の製品を活用。乾燥後、透明になるように樹脂成分の配合から行いました。最終的に製品フィルムを保管・搬送するため両面に貼る保護フィルムも、素材選びや貼り付け加工の方法など、細部にまで我々のアイディアが詰まっています。

今回の開発は社内で実績のある関連材料をうまくマッチングできたこともあり、スピーディーに開発を進めることができました。継続してきた材料研究と昭和電工の既存技術をベースに、我々が目指す市場へアプローチできる開発に切り替えたことが、今回の成功につながったと考えています。

特に苦労したのは、どの開発でしたか?

特に印象に残っているのは、インクの溶剤選びでしょうか。開発したインクを基材フィルムに塗布する作業、そして乾燥させる作業では、乾燥ムラが出ないようにするため、溶剤選びは重要です。種類や比率を変えると、わずかの違いで未溶解分が析出したり、安定性試験での着色が目立ったりするなど、いろいろ困難がありましたが、より良い品質を求めて試行錯誤した結果、納得のいく配合にたどり着きました。

一方で、ラボレベルではシートで試験を行い問題はなかったのですが、量産設備を用いたロールでの加工となると、まったく乾かないようなことが起こりました。予想以上に環境条件の違いが影響したようです。その後、チーム内や協力会社とも意見をすり合わせて、何度も繰り返し検討したことで、何とか最適な条件を見つけることができました。

開発した「銀ナノワイヤを用いた透明導電フィルム」の特長を教えてください。

この製品の一番のアピールポイントは、屈曲性です。量産技術にめどを付けつつ、折り曲げ用途の透明導電フィルムを、ロールフィルムとして開発できたことが、最大のポイントだと思います。特に屈曲性を追求したタイプは薄さが13μmと、従来にはない薄肉化を実現しています。

また、お客様のご要望に合わせて改良を重ねて、この薄さを実現できたのですから、もしお客様が新たな用途・機能をご希望の場合も、これまでの知見を活かして改良することができるはずです。

今後の開発の方向性について教えてください。

次のステップとしては、折り曲げだけではなく、3次元形状の成形も視野に入れた開発にも取り組んでいきます。今後の開発の方向性としては、「より薄く、より加工しやすく」を目指していきます。

今後もお客様からさまざまな評価やご要望をいただき、市場の声を聞きながら、新しい用途への展開にもチャレンジしていきたいと思います。

大籏 英樹

融合製品開発研究所
土気1グループ

グループリーダー

大籏 英樹
山木 繁

融合製品開発研究所
土気1グループ

シニアリサーチャー
工学博士

山木 繁
鳥羽 正彦

融合製品開発研究所
土気1グループ

シニアリサーチャー
工学博士

鳥羽 正彦