開発ストーリーアルミラミネートフィルム型冷却器

車載電池用包材として実績のあるアルミラミネートフィルム「SPALF®」を電池冷却に応用。アルミと樹脂の特長を生かし、車載用電池冷却システムに求められる安全性と信頼性を確保しながらも、軽量かつコンパクトな電池冷却器を開発しました。

アルミラミネートフィルム型冷却器
開発のきっかけを教えてください。

もともとグループ会社の昭和電工パッケージング(株)で、食品やリチウムイオン電池の包装材料の開発・営業に携わっていました。同社の主力製品であるリチウムイオン電池用外装材「SPALF®」は、アルミニウム箔と樹脂フィルムを貼り合わせたアルミラミネートフィルムで、金属缶に比べて成形自由度が高く、軽量で耐食性に優れていることから、20年以上にわたりパウチ型リチウムイオン電池の外装フィルムに採用されています。その貼り合わせ技術は当社独自のものであり、この技術を活かして、次世代につながる開発ができないか模索していました。

そのようななか、電池や自動車関連のお客様から、電池冷却に関する課題を多く耳にするようになったのです。

そもそもリチウムイオン電池は、正常な働きをするための適正温度範囲が5℃~27℃(稼働温度は0℃~45℃)と非常に狭く、温度が高温になると劣化が進むと言われています。リチウムイオン電池の寿命は、温度によって左右されますし、複数使用している場合は、それぞれの温度のばらつきも影響します。そのため、電池をいかに冷却して低温状態に保つかが重要であり、この課題に対してSPALF®でソリューションを提供できないかと考えたのです。

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どのような方向性で開発を進めることにしたのでしょうか?

当初は、スマートフォンやノートパソコンの電池冷却を考えていましたが、製品化にあたって着目したのは、電気自動車のバッテリーです。少数の電池セルで動かす機器より、大容量のバッテリーを使う電気自動車の方に、より市場性があると判断しました。

車載用電池には、速いスピードでの充放電が求められます。急速での充放電では、より多くの熱が発生しますので、放熱も必要になってきます。1台の電気自動車の中には、電池セルが何百個、何千個と入っているので、発熱量も相当なものになり、それぞれの電池セルの温度のばらつきもバッテリーモジュールの寿命に影響するため、温度制御により、一定の温度域を保つことが必要不可欠になってくるのです。

何百個、何千個の電池セルの冷却を、仮にアルミラミネートフィルム型冷却器ですべて賄うとしたら、電気自動車一台当たりのラミネートフィルムの使用量は畳2~4畳分くらいになります。また、現在、車載用電池冷却器の仕様には規格がないので、最初に市場に入り込むことでイニシアティブがとれれば、かなりの出荷数が見込めるのです。

開発の様子を振り返っていただけますか?

当初はSPALF®が電池冷却器の素材として適しているのか、はっきりとはわかりませんでした。そこで熱交換器の開発部隊に協力を仰ぎ、実際にサンプルを作ってみることにしたのです。

SPALF®は、アルミを熱伝導率の劣る樹脂フィルムで挟んだ構造なので、熱伝導率の高いアルミと比べると、熱の伝わりが悪くなることが懸念されました。つまり、冷却効率が阻害され、冷却装置としては適さない可能性があると考えられたのです。

しかし、実際の構造と使用条件をもとに推算してみると、熱伝導率の低い樹脂層の厚みが薄く、電池の発熱密度もそれほど過大ではないので、大きな温度差は生じないことがわかりました。加えて、構成材料の樹脂層のおかげで水系冷媒への耐食性が高く、電気絶縁性もあり、接着強度から内圧に十分に耐えうることが期待できました。そこで、実際に試作しそれらの特性を実際に実証していったのです。

そうして、SPALF®を活用した冷却器に可能性を見出した我々は、開発への第一歩を踏み出すことができたのです。そして、どのような構造であれば冷却装置として効果を発揮するのか、内部構造の設計へと開発を進めていくこととなりました。

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特に苦労したのは、どの開発でしたか?

開発を進めていくとさまざまな壁に直面しましたが、冷却器にラミネートフィルムを用いること自体が業界的にも画期的な発想だったため、特に大きかったのは、市場で求められる具体的な要求特性を明らかにして、これを解決するための構成材料や構造を決めていくことでした。SPALF®は、車載電池用包材にはすでに採用されていますが、車載電池用冷却器ではどのような性能が求められるのか、各パーツに最適な素材は何かなど、新たな専門知識が必要になってきたのです。

幸い昭和電工には、セラミックスや有機材料などの専門家はたくさんいましたし、なによりアルミの熱交換器で蓄積した、熱設計技術や自動車業界における知見が豊富にあったので、他部署と連携し、社内の知識を有効活用することで、開発を進めることができました。

また、開発を進めていくなかでも、新たな発見がたくさんありました。例えば、使用素材の強度が想定以上に強かったり、樹脂製ヘッダの形状で水流の良し悪しが左右されたり、試行錯誤を繰り返すことで、数々の壁をクリアすることができました。

このようにして、昭和電工を支えるさまざまな知恵の結集と、数多く重ねた試行錯誤やトライアンドエラーによって、アルミラミネートフィルム型冷却器の試作品が遂に完成したのです。

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アルミラミネートフィルム型冷却器の特長を教えてください。

本冷却器は、水冷式の冷却システムで、プレートとフィンの材料にSPALF®を用います。樹脂面が表層にあることで、従来の冷却器にない特長を持つことができました。

まず、樹脂フィルムのラミネートにより、アルミの耐食性が向上することから、アルミ層を薄くすることができました。これにより、アルミ材のみで製造する冷却器に比べ、部材の厚みを5分の1から10分の1に抑えることができ、プレス加工での設計が可能になりました。外壁面やフィン材が薄く接着強度も高いので、冷媒を流した時の圧力損失も低く、強度も十分であるため、冷却システムの軽量化・コンパクト化が期待できます。また、形状の自由度も高いので、電池セルを複雑に配置した電池システムにも対応でき、お客様は限られた室内スペースを有効活用できます。

接合部の特長として、金属製冷却器のプレートとフィンの接合には一般的にロウ付けを用いますが、アルミラミネートフィルム型冷却器は、樹脂の熱可塑(かそ)性を利用した熱溶着(ヒートシール)で接着します。ロウ付けでは600℃前後の狭い領域で加熱する必要があり、高い技術と専門の設備が必要ですが、ヒートシールであれば200℃で瞬間的に接着することができるので、製造プロセスにおいてもメリットは大きいと思います。

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今後の開発の方向性について教えてください。

今後の開発では、さらなるスリム化と軽量化を目指していきます。電気自動車におけるバッテリーの大容量化への対応はもちろん、電気自動車以外でも輸送機器の電動化は、これからさらに進むと考えられるからです。
例えば、輸送用のドローンの開発が挙げられます。輸送用となると、より長時間の飛行が必要になるケースも出てきますので、搭載する電池の数も増やさなければいけません。
増やした電池の熱コントロールは当然必要になりますので、ドローンの「空を飛ぶ」という特性上、いかに軽くて薄い電池の冷却器を用意できるかが重要になります。
現状でも薄くて軽いアルミラミネートフィルム型冷却器ですが、さらなるスリム化と軽量化を実現することで、そのニーズに合致すると考えています。

電気自動車の分野では、実際にアルミラミネートフィルム型冷却器を電気自動車に載せる段階で、どのように冷却器を設計するかということが課題になってくると思います。
現在の電気自動車の電池はとても大きいので、数多くの冷却器を組み合せるのではなく、ひとつの大きな冷却器で対応するなど、電気自動車の電池の大きさに合わせた、大型化の検討も必要になるかもしれません。

また素材についても、例えば、今使っている樹脂を、さらに耐久性や耐熱性の高い「エンプラ(エンジニアリングプラスチック)」にするなど、製品の品質向上の可能性を検討し、追求していく必要があると思っています。

今後、開発を進めていくにあたって、これまで以上の壁にぶつかることもあると思います。その時には、昭和電工が誇るさまざまな専門家の知識を再結集して解決していき、より進化したアルミラミネートフィルム型冷却器を市場に送りだすことで、リチウムイオン電池の冷却器市場で存在感を出していきたいと思っています。

南谷 広治

昭和電工パッケージング株式会社
市場開発グループ

グループリーダー

南谷 広治
古川 裕一

戦略企画部
コーポレートマーケティング

マネージャー(自動車分野)

古川 裕一