開発ストーリー耐熱コーティングバインダー PNVA® GE191シリーズ

リチウムイオン電池における知見と高分子の設計技術を融合させ、親水性ポリマー「PNVA ®」をセパレーター用耐熱コーティングのバインダーに展開。塗工性能と耐熱性の高さで電池の安全性向上に寄与します。

耐熱コーティングバインダー PNVA<sup>®</sup> GE191シリーズ
開発のきっかけを教えてください。

実はPNVA®自体の歴史は長く、当社が世界で初めて工業化に成功した機能性モノマー「N-ビニルアセトアミド(NVAモノマー®)」を重合した水溶性ポリマーとして、1997年に事業を開始しています。当初は吸水材をターゲットに、凝集剤や吸水ゴムなどで販売していました。

現在、これらの用途での販売は休止していますが、PNVA®のスペックは非常に高く、例えば、(1)200℃で高温処理しても劣化しない耐熱性、(2)水素結合が多分子構造のため親水性が高く水系での増粘作用が大きいこと、(3)広範囲のpH領域においても増粘性を安定的に維持できる、といった特性を有しています。そこで当社では、この特性を活かした新たな用途を探索し始めました。

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どのような方向性で開発を進めることにしたのでしょうか?

高付加価値分野での展開を前提に考え始めました。PNVA®は過去に化粧品や医薬品添加物用途で研究・販売していたこともあって、酸化チタンや酸化亜鉛の分散、粘度特性に優れていることがわかっていましたので、電子材料分野にフォーカスしました。

PNVA®は金属酸化物に有効な水素結合が多く、電子材料の分散剤や各種添加剤に使われることの多いアルミナやベーマイトに対する密着性に優れており、ポリマー自体の耐熱性も高い。そこで検討した用途のひとつとして、リチウムイオン電池のセパレーターに塗布するバインダーへの添加剤が出てきました。

リチウムイオン電池のセパレーターは、電池の正極と負極の接触を避けるために使われていますが、何らかの原因で電池に異常発熱が起きると、セパレーターが変形・劣化する可能性があります。もし、セパレーターが変形し電極同士が接触してしまうと、ショートして発火事故につながってしまいます。

これらの事故を未然に防ぎ電池の安全性を確保するため、一般的にセパレーターには基材フィルムの表面にセラミック耐熱層がコーティングされています。バインダーとは、その塗工液においてセラミックを固めるための糊のようなものですが、バインダー自体に耐熱性が無いと、高熱によって溶けてしまい、耐熱層のセラミック粒子がはがれ、セパレーターの役目を果たせなくなります。そこで、高い耐熱性を持つPNVA®が使えないか検討したのです。

開発の様子を振り返っていただけますか?

前でもお話ししましたが、電子材料分野でどこにフォーカスするのか、まずは用途選定からスタートしました。

PNVA®には、酸化物との接着性が高く、スラリーでの均一分散性と塗工性に優れるといった特性がありますので、負極に合金粉末を使用しているリチウムイオン電池や、二酸化ケイ素などを均一分散させる必要があるコンデンサ、半導体の製作過程で使うスラリーは、用途としてありそうだと思っていました。

結果として、リチウムイオン電池のセパレーター用途に落ち着いたのですが、それはやはり、我々の得意分野の金属酸化物で、アルミナや酸化チタンや酸化亜鉛など、知見のあるところをベースに研究開発を進められたことが大きかったかと思います。

そこから成分の配分調整をしていくのですが、実証試験についてはお客様にもサンプルをお持ちして反応を確かめ、お客様からのフィードバックや結果を受けて開発を進めました。

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特に苦労したのは、どの開発でしたか?

何よりも、PNVA®がセパレーターの耐熱層用バインダーに本当に適しているのか、確証するまでの道のりが長かったです。

PNVA®は水溶性高分子の中では優秀ですが、この製品のいくつかある特長の生かし方を見つけるのが一番難しかったですね。試行錯誤の結果、この用途での開発を進めることになったわけですが、我々だけでは化学的にこうなるだろうという仮説しか立てられません。

そこで、お客様にサンプルをお持ちして、最終段階の製品化の部分までテストを繰り返しました。耐熱性はもちろん、適切な粘度、塗りやすさ、pH値による性能の違いなどの評価をもとに調整を重ねました。

その中でも特に、溶液の濃度の調整は難しかったですね。粘度は、PNVA®の溶けている量はもちろん、分子の長さに対する分子量も影響してきます。PNVA®はどちらかというとリチウムイオンを通さないので、粘度を出すために入れすぎると抵抗が大きくなるので難しい。そこでどこが最適なのかを見極めながら、実際のサンプリングテストで試行錯誤しながら調整していきました。

また、お客様によっても塗工液中の無機酸化物の種類や量、塗工装置や塗工速度が異なります。同じ量・分子量のPNVA®でもこれらの条件によって結果がまちまちになるので、我々のやっていることが本当に正しいのかという不安はずっと付いてきましたね。

今回の用途展開は、いわばお客様とトライアンドエラーを繰り返したからこそ実現できたものです。お客様からたくさん評価・フィードバックいただけたことで、さまざまな条件に適したグレードを開発することが出来ましたし、お客様との協働が無ければ製品化は見えなかったかもしれません。

また、他の部署や社内の研究所などのアドバイスや支援も、PNVA® GE191シリーズを製品化できた要因だと思います。先端電池材料事業部のリチウムイオン電池における知見や、計算・科学情報センターでのシミュレーション、分析物性センターでの分子構造の解析結果を製法改良にフィードバックすることで、製品自体の完成度を高めることが出来たと思います。

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開発した「PNVA® GE191シリーズ」の特長を教えてください。

PNVA® GE191シリーズの特長は、何より従来製品以上の耐熱性を持つことです。リチウムイオン電池は、今後大型化や高性能化、高容量化が進み、それに伴って、発熱量も上がっていくことが想定されます。PNVA®を添加したバインダーは、200℃といった高温でも安定性能を持つので、リチウムイオン電池の進化に対応し、安全性の向上に役立つことができると思います。

次に、粘度の高さです。セパレーターの耐熱コーティングは、金属酸化物粒子を均一に分散させ、塗工箇所によるムラを起こさないことが重要です。それをPNVA®の特性を活かした高い粘度と広いpH値でも保つ増粘性によって実現できました。

塗りやすさも特長ですね。通常、粘度が高ければ塗り難くなるのですが、この製品は剪断速度に応じて粘度が下がる性質が顕著で、分散状態を保つ高い安定性を持っていますので、素早く均一に塗工できます。それによって製品化までのスピードアップやロスの低減が見込め、コストを抑えることにもつながると考えられます。

こういった特長をバランス良く持ち合わせたPNVA® GE191シリーズは、非常に扱いやすい製品と言えるのではないでしょうか。

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今後の開発の方向性について教えてください。

今後は、リチウムイオン電池の高性能化にあわせて、セパレーターに対する要求特性も上がっていくと想定されます。「耐熱層用バインダーとしての要求に応えていくこと」と、「PNVA® GE191シリーズが展開できる他分野に用途を広げていくこと」といった二段構えで考えています。あと、今のところ国内での販売が中心なので、グローバルでも使ってもらえたらいいですね。

リチウムイオン電池用途については、もう少しレベルアップできるところがあると思っていますし、我々がお客様からの要望や電池の進化にどの辺まで応えられるか、常に検討しなければいけないと思っています。

電気二重層キャパシタでは、アルミと活物質の密着性を向上できるバインダーとして用途展開が見込めますし、アルミ固体電解コンデンサでは、導電性高分子とアルミの密着性にPNVA®が寄与して、性能向上や長寿命化などが期待できます。また、CMPスラリーは、半導体の研磨材に用いられるもので、非常に細かい粒子を均一に分散せねばならず、PNVA®の特性が活きると思っています。

今後、開発を進めていくにあたって、これまで以上の壁にぶつかることもあると思います。その時には、昭和電工が誇るさまざまな専門家の知識を再結集して解決していき、より進化したアルミラミネートフィルム型冷却器を市場に送りだすことで、リチウムイオン電池の冷却器市場で存在感を出していきたいと思っています。

もちろん、それらの用途に使うには、また色々クリアしないといけない課題が出てくると思います。この製品の可能性をさらに探っていき、活用シーンを増やしていきたいですね。

小西 淳

川崎事業所
開発部
扇町開発グループ

マネージャー

小西 淳
菅原 篤

川崎事業所
開発部
扇町開発グループ

課長補佐

菅原 篤